黒の追憶

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「……きて……起きてください……」  聞きなれた声でエルマの意識は浮上した。深い海の底に沈んでいた意識を、優しい声音が水面まで手を引いていく。 「おはようございます、エルマ様」  エルマがゆるりと目を開くと、ぼやけた視界に黒髪の青年が映りこんだ。右目の下にある泣きボクロが特徴的だ。彼が纏う黒のジャケットが、差し込む朝日によって輝いて見えた。 「おはよぉ、リト……」  目をこすりながら、エルマは体を起こした。まだ眠そうなエルマを見て、リトはエルマの頭をそっと撫でた。  頭を撫でる手の感触はまさしく人間のそれだが、彼は人間ではない。リトは、科学者であるエルマの父が造りあげた人型のロボットであった。 「昨晩はよく眠れましたか?」 「うー……遅くまで本読んでたからあんまりかも」 「夜更かしは体に良くないですよ。今晩は早くおやすみになってくださいね」 「はーい」  リトがそう告げると、エルマはへにゃりと笑いながら返事をした。 「では、まずはお着替えいたしましょう」 「え!?僕ひとりで着替えられるよ!」  パジャマに手をかけてきたリトから少しだけ身を引き、エルマは焦ったように手をぶんぶんと振った。 「しかし、私がお手伝いしたほうが効率が……」 「僕もう10歳になるんだけど!」  エルマは顔を赤くしながら怒鳴った。しかしリトも諦める様子はなく、エルマを前に考えているようであった。
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