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「……すまない」
俺は俯いて静かに呟いた。
「何を謝罪する必要がある。彼らは所詮機械だろう」
ノーマンが俺の隣にやってきてそう声をかけてくる。相変わらず冷たいその声は、部屋の空気までも冷やしていくような気がした。
「……心があったなら、彼らの気持ちを聞くことが出来たのに」
「心なんて無い方がいいに決まっている。あっても辛いだけだろう」
次々と起動を始めるエルピスたちを眺めながら、ノーマンは淡々と告げた。俺は顔を上げ、ノーマンの表情を窺う。
彼は、普段の仏頂面を僅かに崩して寂しそうな顔をしていた。
「心がないから――何も感じることがないから、彼らは苦しまずに戦えているのだ」
その言葉に、俺はハッと目を見開いた。
確かに彼の言う通りだ。どれだけ攻撃を受けようと、戦場に送り出されようと、エルピスたちは何も感じない。だからこそ、こんな理不尽で辛い戦いに挑み続けていられる。痛覚も、存在しているとはいえ、それが痛くて苦しいものだと彼らには分からない。
――それでも。
何も感じないなんて、そんなの可哀想だ。心がないからって、こんな風に扱っていいとは限らないだろ。
でも、ノーマンの言っていることは正しい。一理ある。苦痛や悲しみなんて、彼らは知らない方がいいのかもしれない。ただ心を与えてやりたいという思いだけで研究を進めてきたが、それが全て彼らのためになるとは限らない。
俺はまた、自分の研究が間違いだらけではないかと思ってしまったのだ。
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