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「ぐぬぬ……」
ものの五分足らず。カルミアはチェス盤を見つめて低く唸った。眉間に皺を刻み、唇は悔しそうにひん曲がっている。俺はリベルタの横で、その顔を見ながら必死に笑いを堪えていた。
「カルミア様、チェックメイトです」
「だー!?なんで……、なんでこんな簡単に負けるんだよー!」
クイーンの駒を動かしたリベルタが自らの勝利を告げる。その瞬間、カルミアは頭を抱えて勢いよく立ち上がった。
「よくやったリベルタ」
「ありがとうございます、マスター」
相変わらず表情や声に変化はないが、俺にはリベルタがどこか嬉しそうに答えたような気がした。
リベルタにチェスを教えた憶えはないが、やはり複雑な人工知能やプログラムを搭載しているだけのことはある。俺の知らない間に、リベルタはチェスの戦法を学習していたらしい。
「それにしてもすげぇな。完敗じゃねぇか」
「言うな!くそっ、なんでだ……」
眉を寄せながら本気で悩んだ様子のカルミア。そもそもコイツは、なぜ機械相手に頭脳戦で勝てると思ったのだろう。今はもう、機械の方がはるかに賢い時代なのに。
「リベルタだけじゃなくて、エルピスの頭脳が人間に劣るわけねぇだろ。お前が負けて当然ってことだな」
「うぅ……それもそうだ」
納得したようにカルミアは項垂れた。
気持ちよいくらいに負けたし、そろそろ彼も諦めるだろう。なかなかに楽しかったし、良い息抜きになった。カルミアも満足してくれているといいのだが。
「リベルタ!もう一戦だ!」
……全然満足していなかったみたいだ。
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