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そのまま切りそうな強さで唇を噛んだ。止められなかった自分に腹が立って仕方なかった。
どうか、怒ってください。感情に流されてしまった私を、どうか。
けれど、それさえも叶わず、彼は静かに問いかける。
「……そうだな、こんな話を知ってるか?笑うことしか出来ない子供と、笑うことが出来ない子供の話。お前は、どっちがかわいそうだと思う?」
その意味がわからなかった。
懸命に『正解』を探そうとするが、混乱した頭では少しもそれは見つからない。
「わ、わかりません。どっちもかわいそうに思えますけど」
「だろうな。傍から見ればそうだと思う。でもこの話では、笑うことの出来ない子供だけが劣等感を抱いてしまうんだ」
それを聞いて、私は奈落の底に落とされたようだった。
「笑うことしか出来ない子供は、自分がそれしか出来ないことをちゃんと理解している。だから、自分の出来ることを精一杯するだけだ。ツライことがあっても、泣きたいことがあっても、その子はいつもにこにこと笑っている。でもそれを見た笑えない子供は、その子を羨ましく思うんだ。なぜあの子はあんなに楽しそうに、幸せそうにしているんだと。……もうわかるな? お前なら」
「──はい」と喉の奥から絞り出した。
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