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一方僕はといえば、ちっとも垢抜けないパーカーとデニムで、脱いだコートを無造作に肩にかけている。ボストンバッグは足に挟まれて、ダイレクトに床に置かれていた。シャツはダサいチェック柄だし、洒落たアクセサリーなんてひとつもつけていない。
金もなければ、魅力もない。ないない尽くしである。
そんな僕にとって彼女は、劣等感を煽ってくる象徴のように思えた。
「……なんてな」
そこまで思考して、ひとりごちる。
ばかばかしい。情けない。嫌気がさす。へどがでる。
ただ目があっただけの人間と自分を比べるなんて、おかしな話だ。
僕はまた窓の外を眺める作業に戻った。
だが、景色は全然頭に入らず、代わりに家でのいさかいが蘇ってくる。
父母は僕に、家業の農家を継げと迫る。僕は嫌だと繰り返す。繰り返し、繰り返す。
……少し、頭を冷やそう。
そう思って僕は、適当な駅で電車から降りた。どうやら偶然、件の彼女もここで降りるらしい。
がむしゃらに電車を乗り継いできたせいか、ここがどこなのかはよくわかっていない。家を飛び出したのが今朝早くのことで、途中トイレに寄ったりご飯を食べたりしながらだったけど、まぁまぁ移動したんじゃないだろうか。
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