第一話

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「やっぱり、まだ寒いな……」  ホームのベンチに腰かけて呟く。  駅の周りは住宅街らしく、ネオンライトは多くない。線路の向こうに、少しの飲み屋とカラオケチェーンが一軒見える程度だ。車が走る音もあまり聞こえない。  電車の本数は、僕の最寄り駅とは比べ物にならないくらい多いから、もう少しぼんやりしていても大丈夫だろう。  そこで時間を確認しようと携帯を取り出し、電源を切っていたことを思い出す。  少し辺りを見回すと、時計はすぐに見つかった。時刻は9時50分。夜更けである。  そろそろ今晩の宿を探さないといけないだろう。しかし、18才になっているとはいえ、このあたりでホテルを見つけるのは無理だろう。さっき見えたカラオケチェーンでいいか。  ちまちまとバイト代を貯めていたおかげで、今のところはまだ余裕がある。だけど、それも無限ではないのだから、策を練らねばならない。  ……どうせ長くはない家出だろうけど、長引かせる努力はしたいじゃないか。  とりあえず、駅を出てコンビニを探そう。  そう思い立って改札へ向かい、機械で乗り越し運賃を支払う。別に、よその町へ出掛けるのが初めて、というほど田舎者ではないつもりだが、地元に無いものを見ると少し気分が萎縮してしまう。 「さて……と」  気を取り直して辺りを見回す。駅前にはロータリーもなく、家の最寄り駅を彷彿とさせた。あるのは寂れたタバコ屋と、飲み物の自販機くらいだ。  夜食も食べずにカラオケに行くのは、まぁ愚行だろう。しかし土地勘がないから、コンビニの場所もわからない。困った。  どうしたもんかと頭を捻っていると、すぐそばでパタンという音がした。
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