2、蜜蜂

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 それから少し経った、ある午後のことです。一匹の蜜蜂がやってきて、桃の木のまわりでおどりだしました。これは蜂たちのあいさつで、一家それぞれに違うおどりをする決まりなのです。蜜蜂というのはひどく真面目ですし、この山では自分の生まれが何より大事でしたから、最初のぶぅーんから、最後のぶぅんまで、きっちりおどりきらないと話なんてできません。蜜蜂はおどりが終わるのとほとんど一緒に声を張りあげました。 「まあまあ、こんなところにお客さんだなんて! お祖母さんのお祖母さんだってご存じないでしょうねえ。あなた、幸運をよろこばなくちゃいけませんわ。わたくしは一番うまくおどれる蜂なんです。それが、あなた、ただで見られるんですから」  この蜜蜂はひどく気取り屋でしたから、(本当は三番目によくおどれるくらいなのに、)こんな言い方をしたのです。  ヨタはたしかにすごいおどりだと思いましたので、礼儀ただしく手を打って、「お上手ですね」と言いました。桃の木や花たちは何にも言いませんでしたが、この蜂がいつもより気取っておどってみせたことをちゃんとわかっていましたから、ちょっぴりおかしく思いました。 「さて、あなた、ちょっと失礼いたしますよ。わたくしお使いにまいりましたの」  こう言って、蜜蜂はヨタと約束をしたあの末っ子にとまりました。蜜蜂の仕事は、甘い蜜をいろんな花からもらってまわることです。この一家はとくに子だくさんで、桃の木一本をまわったくらいではちっとも足りませんでしたから、蜜蜂は一日中、いろんな花をめぐらなくてはいけませんでした。
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