いつかの苦いラブレター

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 “中西カズヤくんへ”    丸みを帯びた、やや幼い自体が僕の名を綴っている。子どものような整っていない文字に、少し微笑んでしまった。    “まず、最初に謝らせて下さい。実は転校する前に起こった出来事について、友だちから聞いてしまいました。そしてもう一つ、中西くんが捨てたラブレターも読んでしまいました。”    核心を突くような冒頭に緊張を覚えつつ、想像以上に優しい内容に、ほっと胸を撫で下ろした。緊張と安堵が混ざるなんて言う、よく分からない気持ちになっている。  唯一確かな“先を見たい”との感情だけが、ひたすら俺を突き動かした。  あの日、捨てたはずのラブレターは、知らない内に彼女の手に渡っていた。あの恥ずかしすぎる手紙を見て、彼女は何を思ったのか。  多分、以降はそれについて書かれている。    “本当は、黙っておこうとも思いました。多分、嫌な思いをしたと思うし。でも、中西くんが私のことを好きでいてくれたこと、本当に嬉しかったんです。私のことを好きでいてくれる人がいるんだーって感動しちゃって(笑)  だから、どうしても伝えたくて手紙にしました。本当は、ちゃんと言葉で伝えた方が良かったんだろうけど、あの時は本当に時間がなかったの。ごめんなさい。  付き合うとかは出来ないけど、ラブレターくれたの、本当に嬉しかったです。好きになってくれてありがとう。”  ──僕は阿呆か。単純にそう思った。  坂田さんが悪いことを言うはずなんて無かったのに、そんなことばかり考えて。  勝手に、悪い思い出にしていたのは僕で。  嬉しかった。一生懸命込めた思いが、彼女に伝わっていたことが。それも、恥ずかしくて消し去りたい手紙だったのに。  嬉しかった。これでもう、過去と決別出来る気がする。  荷が軽くなった所で、もう片方の手紙を広げてみた。字が大人っぽくなっていたことで、予想が確信に変わる。  恐らく、先ほどの手紙は何年か前の物なのだろう。
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