あの日、俺が捨てたもの

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「おはよう!」 背後からまた声が聞こえ、渡部は振り返り手を挙げて挨拶をした。 それにつられて、俺も振り返る。 駅の方から同じクラスの吉野と田中が、俺たちに向かって走ってきた。 渡部に挨拶をした後、俺にも笑顔で挨拶をしてきた。 吉野と田中も、いつも一緒につるんでいる。 「ねぇ、田島君。一昨日駅前でチラシもらってたじゃん?」 吉野がそう言い、渡部が首を傾げた。 「チラシ?」 「あんたはもらってないでしょ。田島君は受け取ってたよね」 渡部は俺の顔を見た。 「チラシ? そんなのもらってないけど」 「もらってたよ。私、二人の後ろを歩いてたから知ってるの。鞄にしまってたよ」 「チラシなんて、ただのゴミだろ?」 「違うよ。あのチラシは駅の向こうに新しくできたケーキ屋さんので、無料で一つもらえる引換券がついてるの!」 「無料で一個もらえるのかよ! 俺ももらえばよかった」 「聞いたら、一昨日だけの限定配布だったんだって。引換券があれば、今月いっぱい使えるみたいだけど」 「あのケーキ屋さんのケーキ、少し高いけど美味しかったのー」 「だから、田島君がもらった引換券付のチラシ、残っていたら譲ってほしいなーって」 ケーキ屋のチラシ。 思い返せば、確かにそんなようなものを駅前でもらった気がする。 だが鞄の中を見ても、それらしきものは入っていない。 それなら、昨夜捨てたものはケーキ屋のチラシに違いない。 「捨てたよ」 そう言うと、吉野はがっかりした様子だったが、仕方がないと諦めたようだ。 学校に着くまでの間、渡部と吉野はケーキ屋の話で盛り上がっている。 田中はにこにこと相槌を打っている。 俺は、そんな話にまるで興味がない。
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