プロローグ

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お礼を言うと、ミノルはコーラの缶を開けて飲み、食べかけのうどんに再び取りかかった。 なんとなく隣のチヒロの視線が痛く、私はそそくさとイチゴオレにストローを挿す。 たまにこちらに微笑みかけるミノルと何度か目が合った。 三限の途中から教室に入ってきたユッチは、教授に睨まれながらも、その辺の男の子に手を振りつつ登場した。 ユッチの分の出席用紙を渡すと、いつもごめんね、と言って、ユッチは化粧品のCМみたいに粗の無い無敵な笑顔を見せる。 四限までの講義を、お喋りや化粧直しの片手間に受け、全く身にならないまま私たちは帰路についた。 チヒロは誰かと電話をしたままJR改札に入っていき、イクはその後をガニ股で付いていった。 ユッチと池袋に向かって電車に乗ると、本郷三丁目駅と後楽園駅の区間で東京ドームシティーが臨める。 夕陽が時間を溶かし、巨大な観覧車はカップルを乗せ、愛の時間をゆったりと回す。 飛び出んばかりにバイキングやジェットコースターが、街の上空をうねる。 ドームは近すぎて屋根しか丸みを帯びておらず、その巨大さが窓一枚では伝わってこない。 それを眺めるのが好きな私は、一瞬しか描かれないオレンジの絵を、子供みたいに窓に張り付いて見るのだ。 今日もそこには幸せが溢れている。 カップルがキスをし、父親は肩車をした息子に玩具のバットを買い与える。 きっとそうだ。そうだといい。 「成人式の着物決めた?」 ユッチのその質問は、新学期になってからもうこれで三回目だった。 私は座りなおし、「決めてないよ。地元帰るのめんどくさくて」と答えた。 「ナコの実家って埼玉でしょ。電車一本で帰れるって言ってなかった?」 「そうだけど、独り暮らし始めてから一度も帰ってないの。この間のお正月もね。だから今更帰りずらいっていうか。会いたい人もいないし」 ユッチはふんわり巻いたピンクブラウンの髪を指先に絡めて、それじゃあしょうがないね、と口を尖らせた。
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