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神業とも言える上げ底ブラとセットのショーツを着けて、ブラックタイツに足をねじ込む。
タイツだけを履いた姿はどうひいき目に見ても変態女だから、急いでショートパンツを履き、おっぱいを強調する黒いチュニックを着て、胸元のヒモを絞り蝶々に結んだ。
もう一度鏡を覗いて、張りの無い髪をクシュクシュにすると、出来上がったのはバービーちゃんさながらの可愛い私だった。
それはもちろん「私的に」だけれど、温かみを増した陽射しに透ける髪も、ジューシーな唇も、黒で引きしめた足と上半身も、ファッション雑誌を切り取ったみたいで完璧なの。
鏡はありのままを写し出して佇み、レースのカーテンから乱反射して入って来る光たちは、私を輝かせるスポットライトだ。
足触りの良い絨毯から舞い上がる埃だって、スターダストみたいにキラついてる。
左右あべこべに映った時計の針を睨みつけたら、私は鏡の中の自分にキスをしてアパートを後にした。
ピンクベージュのキスは、私のマーキングだ。
通勤ラッシュの埼京線は人の肉で埋め尽くされてほんと最悪だけど、十時過ぎともなれば少しはましだった。
池袋まで一駅の我慢。
小汚いオヤジが手も当てずにバカでかいクシャミをしても、今日は可愛い朝だから睨まず無視できる。
譲り合いという言葉を知らない人たちに揉まれて丸ノ内線に辿り着くと、顔が崩れていないかを手鏡で確認する。
御茶ノ水は学生の街だ。ケバい私をすんなりと受け入れる。
まだ夏の匂いは遠く、空は梅雨の準備中で、雲がまん丸く太っていた。
色の無いビルが立ち並ぶ空は狭いけれど、見上げながら大声で歌い出したくなるほど高く澄んでいた。
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