プロローグ

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新年度が始まってまだ講義は四週目だけれど、このパーソナリティー論の講義は毎回面白かった。 先週は心理検査法の「バウム・テスト」という、樹木の描写を体験した。 私は可愛いリンゴの樹を描いたのだけれど、地面が歪んでいた。 それは「不安定にフワフワしている人」らしい。 別に当たってるとも思わなかったけど、ぴったりじゃん、と言って、イクは机を叩きながら笑っていた。 そんなことよりも私は、幼稚園児が描いたようなイクの絵を見て笑いを堪えていた。 今日は、血液型で性格は分かれるのか? という性格判断法を、教授は当前のように否定した。 それはそうでしょ。人間の分類なんて出来るはずがない。 クレッチマーの気質分類だって酷いものだ。人間を体型で分類するなんて冗談じゃない。 「でもさぁ、ナコはかなりB型な性格してるよね」 イクは声の加減を知らない。 二段下に座る男の子が、眼鏡を指で持ち上げながら振り返って、レンズ越しにこちらを睨みつけた。 一流とは言えない大学に通っているくせに、何故かプライドだけは高い勉強オタクだ。 私は彼におどけて手を振ってみた。すると彼は慌てて前を向き、ノートを開く。 それを見て鼻で笑っていると、「ほら、そういうところがB型っぽい」と、イクはまた酒焼けした声で言った。 講義が終わって学食に移動すると、マックダディのキャップを被ったシュンが、窓際の席で私たちを手招きした。 シュンの隣には初めて見る男の子が座っている。 「誰? このイケメン」と、イクが尋ねた。 「俺と同じ学科のミノル」 シュンが言うと、ミノルと紹介された男は、ワックスでカチカチの髪の毛を動かすことなく会釈した。 イケメン? 乙女さんは職業柄ヨイショ上手だと思いながら、私はくるんと笑った。 するとミノルも真っ白な歯を剥いて笑う。ミノルには右側にだけ八重歯があった。 歯並びで得するパターンだと思いつつ、なつっこい顔になったミノルをしばらく眺めていた。
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