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イクが学食に入っているモスバーガーを買いに行くと言って、シュンに付いてくるよう促した。
シュンはカレーを食べている最中だったというのに、文句一つ言わずにイクの後ろから付いていった。
「あれは奢らせるつもりだな」
私がそう言ってうんざり笑うと、ミノルは見た目を裏切るような低い声を出した。
「シュンって奴隷体質だよね。ナコちゃんは、お昼は?」
「お腹空いてないから。あれ、私の名前シュンから聞いた?」
「前から知ってたよ。可愛いから」
初対面でわざわざこんなことを言う男は信用できない。けど悪い気はしないから笑っておく。
イクとシュンがハンバーガーを求めて席を立っている間に、チヒロがやっと登校してきた。
ヴィトンのバッグをテーブルに置いて、肩に掛けたカーディガンを揺らしながら、チヒロは私の隣に座る。
「ナコの友達?」
ミノルを睨み、チヒロが訊いた。
シュンの友達だと話すと、チヒロは高飛車に「あっそう」とだけ言って携帯を打ち始めた。
それでもミノルは愛想良く笑っていたので、私も仕方なく笑っていた。
ミノルが自販機に飲み物を買いに行くと言って席を立つと、チヒロはこっちまで気が滅入る程のため息を吐いた。
「今は男なんて見たくもないんだけど」
「なんで?」と、私は一応訊いてみる。
「別れた。会社の女と浮気してたんだよ、あいつ。まぁ、別れる前に貢がせるだけ貢がせたからいいけど」
へぇ、とだけ返事をして、私は手持無沙汰で自分の指先に光るネイルを眺めた。
ラメが蛍光灯の角度で七色に煌めくと、私の心にまで虹が咲く。
ラインストーンが踊る爪先をテーブルに突くと、乾いた良い音が鳴った。
この爪は、きっと猫と変わらない攻撃力を持っている。チヒロの白い腕をひっ掻いたら、血を滲ませる位は出来るかもしれない。
そんな凶暴なことを考えていると、ミノルが戻ってきた。
「はい、ナコちゃん」
渡されたのは、パックのイチゴオレだった。
私は付けまつ毛のせいで重い瞼をかっぴらいて、ミノルの顔を凝視した。
「前学食で見掛けた時、ナコちゃんがそれ飲んでたの思い出したから」
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