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本棚に残っていた黒い化粧箱に金のラインが入った立派な箱を手に取った。
私たちの結婚式のフォトブック。きちんと業者に頼んで、金額も確か二、三十万はしたはずだ。それなのに、この短い結婚生活で見たのはほんの数回だ。もったいないことをしたな、と今になって思う。
引っ越しの準備はもうほとんど終わっていた。離婚して出て行くのだから、持っていくものなんてほとんどない。
それなのに、この真っ先に捨てるべきフォトブックが未だに残っているのは、思い出でも未練でもなく、その金銭的な後悔のせいだった。
踏ん切りをつけよう、と箱を開けて表紙をめくると、するりと茶色の封筒が滑り落ちた。
ああ、ここにあったんだっけ。
最近は取り出すことも読み返すこともなかったから、すっかり忘れていた。以前は毎日のように取り出して眺めていたのに。
大量生産の安っぽい茶封筒には、角張った筆跡で住所と私の名が書いてある。何度も手に取ったせいかだいぶ薄汚れていた。
その中に入っている一枚の手紙を取り出す。
よれよれになった紙、そしてところどころ滲んだような跡も残っている。
この手紙を初めて読んだときの、そして何度も読み返したときの私の苦悩が刻み込まれているようだった。
そこに書かれているのは、手紙と呼ぶにはあまりにも短い一文。何度も読んだ、忘れることのできない一文。
でももう、これは私に必要のないものだ。少し眺めてから、封筒と一緒にゴミ袋へ放り込んだ。
『お前の夫は、浮気している 早く別れろ』
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