健やかなるときも病めるときも 世界は裏切りを秘めている

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「別れてほしい」  夫が私にそう言ったのは二年前だった。そのとき、私はなぜかその理由が「女だ」と分かった。  もちろん夫がそう言ったわけではなく、ただ分かってしまったのだ。直感としか言いようがないこの感覚は、夫婦として過ごした時間――六年、付き合っていた時間、ただの知り合いだった時間も含めれば十一年――その時間が作り上げたものなのだろう。  とりあえず返事を保留にして、私はその裏付けをするために動いた。  証拠は思ったより簡単に手に入った。  試しに、と夫の車に仕掛けたボイスレコーダーは、思った以上にいい仕事をしてくれた。仕掛けて三日目に、夫が相手の女と電話しているところを録音できたのだ。  しかも、以前からの関係を示唆する内容。そして離婚の原因であるとはっきり分かる内容だった。  あっけなく手に入った証拠を前に、私は夫の不運に同情さえした。  私は夫と話し合い、しばらく離婚は見合わせてほしい、私もすぐには受け入れられないし、まだ続けていく努力をしたい、その結果あなたが離婚を選ぶなら私も受け入れる、そう告げた。  本当の理由を隠し、「これからの二人のために」とか「気持ちのすれ違いに耐えられない」とか、聞こえがよく、ふわふわとしたものしか並べられない夫は、論理的な意見に反論できないことも分かっていた。  私と夫が別れないことで、まずは相手の女との間にほんの少しヒビを入れることができた。  そして、そのヒビは決して埋められない。そしていつか決定的な亀裂となる。私はそう確信していた。
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