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結局、夫が私に「別れよう」と告げてから二年後に、私たちは離婚することになった。
離婚を決めたのは夫ではなく、私だった。
夫との離婚理由には、あのボイスレコーダーのデータを使った。
「ごめんなさい、あなたを信頼しようと思ったけど、もう無理なの」
そして慰謝料の取り決めをして、私たちは他人に戻った。夫はずっとうな垂れたままだった。
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「夫っていう人は、唯一自分で選べる家族なの。だから、お互いを信頼していける人じゃないとダメよ」
結婚したい人がいる、と告げたとき、母はそう言った。
そのとき、私は夫を信じていた。この人は私を裏切ったりしないと。
しかし、夫が私以外の女に手を出したと知って気付いてしまった。
夫は私を愛して、信頼して、唯一の存在だと思って一緒にいるのではないのだと。
きっと夫は、ドーナツをトレイに乗せるくらいの気軽さと責任感で私と一緒にいるのだと。
それでも、私は夫を愛そうとした。信じようとした。
あの手紙は、私が「妻」でいるために必要だった。あの手紙を読んで傷付いている間は、私はまだ「妻」でいられた。
私は、どうしようもなく「妻」でありたかった。夫が触れたどの女よりも、特別な記号を持った女でありたかった。
しかし、あの日、夫の裏切りを知った日に、私はもう夫への愛も信頼もとっくに捨ててしまっていたのだ。
日に日に薄れていく胸の痛み。今はもう、うな垂れた夫を見ても何も思えなかった。可哀想だとも、哀れだとも、何とも思わなかった。
ただ、この人に「夫」という記号を与えてしまったことが悔やまれただけだった。
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