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荷物の運び出しが終わり、最後に残ったゴミ袋を持って部屋を出る。
マンションの集積所にそれを捨てたとき、半透明の袋の向こうに、あの手紙が見えた気がした。
でも、それはもう私には必要ない。
マンションから出ると、道の向こうに「彼」の車が見えた。
「由美さん」
窓から顔を出して私の名を呼んでいる。
そう、その名前が、私の特別な記号。私が私であるという、絶対に裏切らない記号。
夫には告げていないが、「彼」の存在も離婚を決意した原因の一つだ。
「引っ越し、もう終わったの?」
「ええ、もうすっかり」
そう言うと、彼は照れたように笑った。
「そっか」
「ええ」
この人もいつか私を裏切るのだろうか。
【 完 】
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