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○芝生の上
パシン! パシン! と音が響いている。
面をつけ、胴着姿の男2人が剣道をしている。
が、そこは道場ではなく、どう見ても剣道をするような場所ではない、洋風建築の建物の中庭。
字幕『20世紀初頭 ロシア帝国・モスクワ』
2人の中年の男が、酒瓶を片手にその打ち合いを見ている。
背の低い方の男が、背の高い方の男のノドに突きを入れようとする。
と、背の高い方の男はそれをあっさりとかわし、逆に面を入れる。
パーン!
背の低い方の男は、突進した勢いでバランスを崩し、前のめりに倒れる。
背の高い男が、小手を外して面を脱ぐ。
顔が露わになる。
宇多川制(うたがわ せい・25)。
制、眼鏡をかけて、中年男2人組の方を見る。
中年の男2人組のうち、男Aの方が歓喜の声を上げる。
男B、舌打ちして男Aにルーブル銀貨を投げる。
口笛を吹いて去っていく男A。
男B、まだ倒れている背の低い方の男に向かい、
男 B「(指を折りながら)1、2、3、4……。10。10ルーブル。お前のせいでいままで損した分。(制に向かって)制、いつになったら俺はこの分取り返せるんだ?」
制 「こういう日本の言葉があります……『当たるも八卦、当たらぬも八卦』」
男 B「は?」
制 「結局、運次第だってことです」
男 B「……あーあ」
男B、ウオッカをぐいと飲んでその場を去る。
倒れている男、そのまま面を脱ぐ。
宇多川開(うたがわ かい・19)。
制 「開、先に帰りますね」
制、面や竹刀を持って去っていく。
開、空をみつめる。
一面の澄んだ空に、トンビが飛んでいる。
開、上半身を起こす。
と、つーっと、頭頂部から血が落ちてくる。
それを指で掬って、「ヒッ」と青ざめる。
開、慌てて制を追っかけ、
開 「兄ちゃん!」
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