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最上階より屋上へと続く長い列の最後尾に、僕たちはいた。
ここは、かつてビルと呼ばれた建物だ。これを大人たちは、「神聖なる遺構」と呼んでいた。あるていど原形をとどめるものは他にもあるが、崩壊、倒壊の危険性が高いらしく、近づくことは禁止されていた。
文明というものは、神が創り、神が終わらせた――。
と、僕らは教えられた。よく意味はわからないが、何でどう創り上げたかも想像に難いこんなにも大きなビルみたいなものを、建てて、壊した、ということなのだろう。
徐々に列は前へと進み、ようやく僕たちは屋上に出た。現実が目に飛び込んでくる。
後ろのラナが僕のシャツの裾を掴んだ。ちらっと見ると、えも言われぬ表情を浮かべていた。彼女にも思うところがあるのだ。
「八十五」
という淡白な声が前から響く。タクオだ。
僕らより少し年上の彼は、親より受け継ぎ、管理職という神聖な役についた。偉そうでいけ好かない、とは口が裂けても言えない。ただ、ここにいるほとんどのものがそう思っているはずだった。
――高さゆえか、音すら聞こえなかった。が、列は前へと進む。ひとりぶん。
「次っ」
と、列の先頭のほうで、タクオが言った。
見届け役は、タクオのほかに男女がふたりいた。けれども、年寄りどもは階段を上ることを早々にあきらめた。同じく老年は列の中にもいるというのに。上のやつらは軟弱すぎるのだ。
「八十六」
今夏は大揺れと大風が多発した。農作物への影響は多大で、僕たちのような「ヒラ」が、人身御供として神に捧げられるのは必然だった。
ただし、今回は特別だ。
「次っ」
いつもは若い娘がひとり身体を捧げるだけだった。しかし、数十年ぶりに百身供犠なるものを敢行する運びとなったのだ。短期に散発する災禍が収まらない以上、もはや他の手段はないのだと。
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