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第六話
「……力抜いてくれんか。そがぁに力まれちゃぁ、奥まで入っていかんけぇ」
間宮中尉が呻いた。
うちは、ぎゅっと瞑っていた目を開けた。
「ほいで、えらぁ強ぇ力で押し戻されるんじゃが……わりゃぁまだ、わしのことが怖ぇか」
中尉が、うちの目を覗き込んで心配そうに訊く。
「いいえぇ……うちゃぁもう、あんたぁのこと、怖ぇないけぇ」
うちは、中尉の目をしっかり見てそう応えた。必死だった。
中尉はそんなうちを愛おしげにぎゅっと抱きしめ、うちの頬に自分の頬を摺り寄せた。
それから、ふと思いついたように中尉が云った。
「……息を、深う吸うてみてくれんかのう」
うちは、異な気なことじゃの、と思ったが、云われたとおりに息を吸った。
「もっとじゃ」
中尉が云う。
うちはさらに息を吸った。
「もっとじゃ」
中尉がまだ云う。
うちはもう限界まで息を吸っていた。
もうこれ以上は無理じゃ、と思ったその瞬間。
「よしっ、今だ……息を吐けッ」
中尉の号令が響いた。
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