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初めて会った見合いの日、間宮中尉はうちの顔を見るなり軍帽を取って脇に挟み、足をピシッと揃えたと思ったら、直立不動の体勢から、いきなりカクッと腰を垂直に折って頭を垂れた。
それは、頭を下げているのにもかかわらず、全く卑屈さを感じさせない、惚れ惚れするほど美しい「最敬礼」だった。
そして、海軍士官ともあろう人が、初対面の、しかも女学校を出たばかりの自分のような者に最敬礼するのは考えられないことだったので、ものすごく驚いた。
だけど、軍服姿の間宮中尉は年齢よりもずっと上に見えて近寄りがたく、うちには怖い人に思えた。
だから、見合いの日も、結納の日も、顔すらまともに見ることができなかった。
今、目の前にいる中尉は、涼やかな麻の白縞を身に纏っている。
それを爽やかに着こなす、二十代半ばの若々しい青年がそこにいた。
軍服の時はオールバックに髪を撫でつけていたが、今はポマードをつけていないらしく、さらさらした前髪が額にかかっていた。
軍人というよりは、大学生か文士といった風情であった。
怖い人にはとても見えない。
それでも、結局、中尉の顔をまっすぐには見られなかった。
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