第二話

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「箸が進んどらんのう。口に合わんか」 俯きがちなうち(・・)の顔を覗き込むようにして間宮中尉は云った。 うちはぶんぶんと頭を振った。 日支事変が始まった当初は、内地の生活はほとんど変わらなかったから、遠い大陸での話だと思っていた。 ところが、長引くにつれて、だんだん物が出回らなくなってきて、木綿などの生活必需品の統制が始まった。 そして、とうとうこの春、大都市から順に米までもが配給になった。 御膳にあるのは、今では手に入りにくくなった「御馳走」ばかりだ。 都市(まち)に住んでいるとは云え、海のそばにあるから魚は比較的手に入るが、ここに並んだ魚はそれとは別格だ。 魚のような海の幸だけではない。山の幸も用意されていた。 これが「軍の力」なのだろう。
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