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薫子さんは風呂の中でもいろいろ教えてくれた。
今月、とうとうアメリカが日本に石油を売らなくなったらしい。
そうなれば、これからますますいろんな物資が不足していくに違いない。
「うちの中尉殿、なぁんも云わへんけど、かなり過酷な訓練させられとうみたいやわ」
湯船に浸かりながら、薫子さんは一点を見つめて云った。
「ここの基地に移って訓練を始めてから、どんどん、どんどん、痩せていきようねん」
彼女は目を瞑った。
「前はうちから、今度の休暇はいつなんって手紙で聞かんと教えてくれへんかったのに、今回は自分から電報打って来ようった……あんたの中尉殿も似たようなもんやろ」
うちは大きく肯いた。
「のぼせる前に背中流したるわ」
薫子さんはザバッと湯船から立ち上がり、洗い場へ向かった。
長い首、華奢な肩、背中から腰にかけての優美な線、引き締まってきゅっと上がったお尻、すんなりと伸びた足。
彼女の裸身の後ろ姿は、匂い立つように美しかった。
「こんなんやったら、うちに休暇のことは云わんと、仲間と一緒に芸者を上げて遊びまくっとうったときの方がマシやったかなぁー」
うちの背中を手ぬぐいで擦りながら、彼女は声を張り上げた。
「……げ、芸者って」
うちがぎょっとして振り向くと、
「あぁ、心配せんでも、あんたの中尉殿はもう大丈夫やで。海軍の中でも堅物になったって有名やから」
彼女は声をあげて笑った。
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