第三話

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「なんでもよう知っとるねぇ。お父さんは海軍の人なん」 今度はうちが彼女の背中を洗いながら云った。 薫子さんは首を振った。 「うちは商人の娘や。父は貿易関係の会社をやっとう。うちの親類縁者に軍人はおらへんし」 「……ほうじゃったんか」 彼女がうち(・・)とそう変わらない環境だと知ってびっくりした。 「うちの中尉とは幼なじみ同士なんやけど、うちは一人娘やさかい、親の猛反対を押し切って、やーっと結納まで漕ぎつけてん」 薫子さんは誇らしげに笑った。 「女学校に行っとうった頃はほんっまに勉強せんかったのになぁ。今は新聞をだいぶ読むようになったわ」 そして、少し寂しそうに笑った。 「……あんたもじきに、そうなるで」
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