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部屋は電燈を消されて、一瞬のうちに真っ暗になった。
寝巻きに着替えた間宮中尉が蚊帳の中に入ってくる。
わたしは中尉に背を向けて横たわっていた。
生まれて初めて一人きりで長い間汽車に乗って、全然知らないところへ来て、全身はくたくたに疲れているはずなのに、目は異様に冴えている。
やけに蒸し蒸しする、暑い夜だった。
間宮中尉が蒲団に身を収めると、息をするのも憚られるくらい、辺りはしーんと静まりかえった。
外からだろうか、猫の鳴き声が聞こえてきた。
……異な気なことじゃねぇ。今の時季に猫は盛らんじゃろうに。
耳を澄ましてみた。
「・・・ぅう・・・ぁあ・・・ぅう・・・」
外からの声じゃない。たぶん、襖の向こうからだ。
そして、猫の鳴き声じゃない。
……女の声じゃわ。
それは、女のすすり泣くような声だった。
……一緒にお風呂へ行った薫子さんかもしれん。
なにかあったんじゃろか。
うちは寝返りを打って、中尉の方へ向き直った。
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*いなげな ー 奇妙な・不思議な
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