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第五話
……うちゃぁ、これから、どがぁなことをされるんじゃ。
うちの目に涙が込み上げてきた。
中尉が左右の手のひらで、うちの頬をすっぽり包んだ。大きな手だった。
「……わしが、怖ぇか」
中尉は暗闇の中で、うちの目を見て云った。
「見合いの日も、結納の日も、そして今日も……わりゃぁ、まともに口きいてくれんけぇのう」
うちの目の涙が、あふれそうなほどふくれ上がる。
「わしと夫婦になるんが、そがぁにいらんのんか」
闇の中でもうちの目に光るものが見えたのか、中尉は不安げに尋ねた。
うちは、ぶんぶんと首を振った。
それは、自分でも思いがけないほど、激しいものだった。
「……ほうか」
中尉はほっとした声で呟いた。
そして、首を振った拍子にあふれ出て、頬を伝っていくうちの涙を、親指でそっとぬぐった。
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*いびせえ ー 怖い・恐ろしい
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