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駅を出ると自動車が待っていたので、それに乗り込んだ。ボンネットの端には海軍の旗がはためいていた。
これから、いよいよ婚約者の待つ旅館へ向かうのだ。
女はその旅館の仲居で、うちを案内するために婚約者が仕向けた者だった。
うちの婚約者、間宮 義彦は海軍航空隊所属の中尉である。
この町にある、昨年できたばかりの海軍の岩國基地で飛行訓練をしていた。
間宮中尉から、この度三日間の休暇を賜ることになったからうちを寄こしてほしい、という手紙が突然、父の元に届いた。
嫁入り前の娘がたった一人で汽車に乗り、婚約者とは云え男に会いに行くなんて、世間が聞いたらなんと云うかしれないから、てっきり反対するものと思っていたら、
「顔を見せてくりゃぁえぇわ。中尉殿は、お国のために日夜、命乗すけとるんじゃけぇ」
と云って、父はあっさりと許可を出した。
うちのような立場の女が他にもいて、夜は彼女たちと一緒に休む部屋が用意されていると書き添えてあったため、それなら案ずることはないと判断したようだ。
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*のすける ー 乗せる・渡す
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