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第二話
今まで……と云ってもまだ二度しか会っていないが、うちは軍服姿の間宮中尉しか見たことがなかった。
見合いの日も、結納の日も、真っ白な海軍の軍服を着て、軍帽を身につけていた。
だから、部屋の中にいる着流し姿の中尉が、首をこちらへ向けたとき、一瞬だれだかわからなくて、反射的に後ずさりしてしまった。
仲居から笑いながら促されたので、うちは部屋の中へ入った。
部屋には既に御膳が置かれていた。
窓の外を見ると、もう宵が迫っていた。
うちは間宮中尉の対面の座蒲団に腰を下ろした。
仲居が茶の用意を始めたので、
「うちがやりますけぇ」
と云って引き取った。
「気兼ねなことですのう。ほいじゃぁ、邪魔者は去ぬるけぇ、ゆっくらしてつかぁさいよう」
仲居は「どっこらしょ」と腰を上げて、部屋を出て行った。
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*きがねな ー 申し訳ない・遠慮する
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