第四話

1/4
918人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

第四話

うちは呆然と立ち尽くしていた。 夜は別の部屋を用意してあるというので、父はうちをここへ寄こしたのに。 不機嫌そうに顔を(しか)めた父の顔が浮かんだ。 どんなときでも明るく朗らかに笑う母の顔も。 そして、好きな人と結ばれることになって、一段と綺麗になった姉の顔も。 ……今頃、なにしょうるんじゃろ。 うちの目に涙が込み上げてきた。 でも、ここで泣くわけにはいかない。 だから、うちは気を紛らわすために、胸に抱えた風呂の道具を片付けにかかった。 着替えた着物や肌襦袢を衣紋掛けに吊るし、濡れた手ぬぐいを干し、汚れ物を鞄の中に入れた。 できるだけ、バタバタと音を立ててやった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!