第三話

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海兵時代「江田島で幽閉」されていた鬱憤が、一気に噴出したのはその頃だ。 神谷と一緒に、一通りの「悪さ」はした。 命を懸けた訓練から解放された賜暇(ほうか)には、酒を浴びるほど呑み、俸給(ほうきゅう)をごっそり賭けてうつつを抜かし、芸者を上げてドンチャン騒ぎをした。 女郎屋に入ったら部屋が一つしか空いておらず、仕方がないので間に衝立(ついたて)を置いて、それぞれ(おんな)を抱いたこともある。 贔屓(ひいき)の芸者に子を孕ませかけて、ヒヤッとしたこともあった。 しかし、女には心から溺れることはできなかった。 だから、女たちはいつも短期間で去って行った。 いつか見た、あの強い眼差(まなざ)しが、わしの心のどこかに棲みついて離れないのを、感じ取ったからかもしれない。
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