第五話

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第五話

そのとき、(ふすま)の向こうで物音がした。話し声もする。 おれは嫌な予感がしたので上体を起こし、廣子のブラウスの胸元をパッと戻して、立ち上がった。 そして、乱れた自分の白縞の前をすばやく整えた直後、豪快に(ふすま)が開いた。 白いランニングシャツとズボンに着替えた神谷が、どかどかと入ってきた。 「……四人で、花札やろうや。『こいこい』でも『株』でも、どっちゃでもええで」 手の中の花札をヒラヒラさせながら云った神谷の後ろには、奴の彼女が両腕を組んで立っていた。 廣子は背を向け、慌ててブラウスのボタンを止めていた。突然のことで動揺しているのだろう。 肩が震えていた。 「貴様、他人(ひと)の部屋に声も掛けんといきなり入ってくんなや。いつも云うとるじゃろうが」 わしが怒りのあまり吐き捨てるように云うと、神谷がわしの腕を取って脇へ引っ張って行き、 「頼むさかい、おれとあいつを二人っきりにせんといてくれ。なんや知らんけど、おれが朝飯のとき、おまえのエンゲの乳ばっか見とうったって難癖つけて、えらい怒っとうねん」 片手で拝みながら、声を殺して云った。 そんなくだらない理由のために、これからだっていうところで邪魔をされたわしは心底腹が立ち、奴に取られた腕を振り払って睨みつけた。 多分、敵機を目の前にしてもこんなふうには睨みつけられないだろう。
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