第一話

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「昨日の晩、寝床に入って、さぁこれからっていうときに、うちの婚約者(エンゲ)には参ったわ」 わしが麦酒(ビール)の瓶を傾けると、神谷がコップを手にして云った。 「いきなり、日本はアメリカと戦争すんのか、ときた」 「ほう……」 わしは麦酒を奴のコップに注ぎながら、目を細めて云った。 「屑鉄(くずてつ)に続いて、今月からアメリカが油を売らんようになったけぇのう」 先月に南部仏印(フランス領インドシナ)へ進軍した日本に対する、アメリカの報復措置だった。 「支那との戦は陸軍の仕事じゃが、アメリカが相手じゃと海軍の仕事になる。それが、気がかりなんじゃろな」 それを無言で聞いていた神谷は、コップの中の泡立った琥珀色の麦酒をぐいっと一気に呑み干した。
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