第八話

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廣子に「お蒲団の上に灰落とさんでね」と云われながら煙草を吹かしていたら、今日は一日中部屋に閉じこもっていたことに気づいた。 せっせと繕い物をしている廣子に、行きたいところはないか尋ねた。 すると、廣子は目を輝かせて答えた。 「義彦さんが夕べ、裏の(みぞ)に蛍がようけおるって云うとったじゃろ。うち、見に行きたいんじゃけど」 わしは快くそれを請け負った。 「……ほいで、もう一つ、聞いてほしいんじゃけど……」 廣子は上目遣いで探るように云った。 「うちらに、子ぉが生まれたら……」 廣子が思い切ったように言葉をつないだ。 わしは煙草を持っていない方の指で、いとおしい廣子の頬を優しく撫でた。 ……わりゃぁ頼みじゃったら、わしゃぁなんでも聞くけぇのう。 「……絶対に、子どもの前では歌わんでね」 廣子の有無も云わさぬ目を見て、わしは敵よりも(いびせ)ぇと思った。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ *ようけ ー たくさん *いびせえ ー 怖い・恐ろしい
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