第一話

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「……で、貴様はどがぁ答えたんじゃ」 わしはニヤッと笑って訊いた。 「(いくさ)に行かぬ女には関係ない、そないなこと考えんな、と云うた」 神谷は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。 「まぁ、そう云わんと仕方(しゃぁ)なかろうな」 わしは苦笑しながら、奴にもう一杯注いでやった。 「貴様の婚約者(エンゲ)は大人しそうやから、そういうこと訊かへんやろ。うちの薫子(ゆきこ)みたいに、気ぃ強うて頭でっかちなのも考えもんや」 神谷はそう云って、また一気に呑み干した。 「大金持ちの一人娘を、親の反対押し切ってかっ(さら)ったくせに、今更(いまさら)なに云うとるんじゃ」 相手の武藤(むとう) 薫子の家へ婿養子に入ることになったとは云え、本意を完遂した奴に対して、わしは一笑に付した。
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