第一話

4/6
932人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
「……ほんで、間宮(まみや)、貴様はどう思うんや」 今度は、神谷がわしのコップに麦酒(ビール)を注ぎながら訊ねた。 「なにがじゃ」 わしはそう訊き返してから、コップの中の麦酒をごくっと呑んだ。 「おまえは、日本がアメリカと戦うことになると思うか」 神谷は上目遣いで訊ねた。 湯上りの空きっ腹に入れた酒でもう酔うたか、と思ったが奴の目は真剣な色を帯びていた。 「さぁ、どうじゃろうか。どちらにせよ、わしらは命令が下りればそれに従うしかないけぇのう」 わしはそう云って、また麦酒を口に含んだ。 「もし、(いくさ)になったとしたら、勝てると思うか。 ……あのアメリカに」 神谷は目に力を込めて訊いてきた。 わしらは、海軍兵学校の遠洋航海の演習でアメリカへも行って、かの地を見てきている。 あの広大な国に戦を挑むのか……いや、挑めるのか? 「勝てるじゃろ」 にもかかわらず、わしは即答した。 「ほいじゃが……」 そう言葉を次ぐと、神谷は自然と身を乗り出してきた。 「『(ひよどり)越え』並みの奇抜な攻撃で敵の目をくらませとるうちに、さっさと講和に持ち込まにゃいけん。長引けば、油を持っとる奴らには(かな)わんけぇのう」 わしはきっぱりそう云い切ると、コップの中の残りの麦酒をぐっと呑み干した。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!