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そこは夢見ヶ池公園という。 その名の通り大きな池を囲むようにして遊歩道を巡らせた公園だ。 僕は良くここに来て、ベンチに座り池を眺める。 ここは僕にとって、二年前から時間が止まったような場所なんだ。 二年前。 まだ大学生だった僕は、この公園で彼女にふられた。 彼女が立ち去った後、一人残された僕は、まるで彼女との縁を断ち切るようにして、薬指につけていた指輪を池に投げ捨てた。 彼女との交際一周年の時にお揃いで買ったシルバーの指輪。 彼女と僕の絆を刻んだ指輪だった。 ……彼女への想いを投げ捨てたつもりだったのに……。 指輪の重みや冷たい銀の感触は今でも肌に焼き付いている。 彼女の声も、仕草も、温もりも、微笑みも……。 僕は未だ彼女を忘れることができずに、僕の心はこの池の前で時間を止めてしまっているんだ。 ……例えば魔法が使えればいいのに……。 ふと仲睦まじい様子の老夫婦が僕の前を通り過ぎていく。 それは僕にとって行き止まりの先の未来。 僕はもう進むことのできない未来図に心を痛めて、冷え切った溜息を零した。 どれだけの時間を僕は無駄にしているのだろう。     
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