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そう思った時だ。池のほとりの草むらで、何かが太陽に反射してキラリと光ったのが見えた。 あの指輪だ。 なぜかそう思って、僕は光に近寄ってみる。 まともに考えれば池の底に沈んでいるはずの指輪が返ってくるはずもない。 光の正体は無造作に捨てられたコーヒーの空き缶だった。 「マナーがなってないな」 そうボヤきながら、僕は空き缶を拾い上げた。 マナーの悪いヤツもいたもんだ。そう思ってゴミ箱に捨てようとした。 ただ捨てるにしても余りにも汚れがひどいので、パッパと軽く缶の表面をはたく。 その時だった。 ……なんだ……? ふと、世界は銀色の光に包まれた。 遊歩道を行く人が、まるで氷漬けにされたかのように動きを止めている。いや、動きを完全に失ったと言う方が正確だろうか。ろう人形のように固まっているのである。 池は枯山水の庭のようだ。ところどころに刻まれたままの波紋。池の水は今、アクリルと何も変わらない。 小鳥も、ちょうど飛び立とうとしていたのだろう。羽を広げた格好で空に向かいながら、そのまま宙に固定されているではないか。 時間が止まった。 にわかには信じられないが、そうとでも思わなくては、とても納得などできやしない状況だった。
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