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「……指輪を取り戻して欲しいんだけど……」 僕は一つ目の願いを告げる。 「二年前に、この池に投げ捨てた指輪だ。できるか?」 魔人はどこか高飛車に、ふんぞりかえって池を見る。 「ダメなら、ダメで構わないぞ」 そうだ。 ダメならそれで良いんだ。 指輪には何の価値もない。 一度捨ててしまって、すっかり池の底でさびれてしまった指輪なんか本当は要らないんだ。 ……僕は、あの日捨てたモノが欲しいだけだ……。 ふと、池を眺めていた魔人は不敵に微笑んで見せる。 それから、 「ぷるるん、ぷるるん。指輪さん。指輪さん。池からひょっこりひょっこり、ついでにもひとつひょっこりィ。ピヨピヨピヨピヨォ。……オラァッ、出てこいやッ」 呪文は唱えられた。 「ってッ、呪文がなんかさぁッ」 めちゃくちゃだった。 が、 気がつけば、僕は手に指輪を握っていた。 正確なはあの日捨てた指輪なのか、確証はない。 二年間池の中で放置されていた指輪はドロドロしたものを付着させた塊になっていたからだ。 ただ、それが魔人の魔法によって池から飛び出してきたものであることは確かだ。 ドロドロを払ってみればわかるだろう。 けれど、何か心にゾワゾワしたものがある。 とにかくだ。 「一つ目の願いは叶えたぞ」 と、魔人か言うのに、 「……ああ……」 と、僕は答えた。
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