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私の秘密
我が妹が、義弟を慕っていると知ったのは、義弟が我が家に訪れて間もない頃。
言葉よりも雄弁に語る熱の籠った眼差しや、薔薇色に染まる頬が妹の気持ちを赤裸々に語っていた。
妹が義弟に惚れてしまったのは、一目見た瞬間、つまりは母が新しい父親と新しい弟として彼等を引き合わせたその瞬間だったのかもしれない。
それは無理もないように思う。同じ男として見ても、義弟は文句なく整った顔立ちをしていた。
しかし、妹が惹かれたのはその容姿というよりも、憂いを秘めた漆黒の双眸にあるのだろう。妹と私は似ているところがあるので、そんな理由には容易に辿り着いた。
あの底の見えない闇を見つめていると、足元を掬われる恐怖も生まれるが、反対に好奇心もくすぐられるのだ。
その暗闇の底に目を凝らしてみたら、何が見えるのだろうと、暴きたくて堪らなくなる。
危ないところで、私は妹に同調しかけた己を引き剥がして現実に帰ってきた。
あまり深く妹の気持ちを考えていると、引きずられそうになることがこれまでもしばしばあったのだが、今回は尚更それが強いようだ。
相手があの義弟のせいもあるだろう。気を付けなければ、私の本心を見失ってしまう。
ふわりと漂う意識をかき集めて息をつくと、人の気配が近付いてきた。感覚を研ぎ澄ますまでもなく、それが義弟であると分かっていた。
私は風に煽られて自分の日記のページが捲られるのをそのままにして、振り返る。
義弟は私の部屋の障子に手をかけたまま、しばし立ち尽くしていた。俄にこの部屋の惨状を信じられないのだろうと思ったのだが、その暗い瞳には何も表れていない。少なくとも、表面上は。
なぜ、だとか、兄さん、だとか、或いは私の名前だったのか。私はその唇が紡いだ一言を、聞き分けることも叶わない。
ほら、お前たちの秘密は私が持っていった。だからもう、誰にも構うことなく想いを遂げなさい。
私の声を耳にしたはずはないが、義弟が私の体にすがり付いて雫を一筋溢すのを本物の闇の中から眺めていた。
常闇に着いても分からない。私が持っていった秘密は、果たして義弟と妹の許されない恋だったのか、それとも妹と同調して私自身も同じ気持ちになっていくのが苦しかったのか。
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