兵学校

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兵学校

「なあ、関さん。将来はどうするんぞ。 」 「わしは、一高志望じゃ。それか、兵学校行こかおもとる。親は師範学校へ行って教師になれと言うが。 」 旧制西条中学での休み時間、中庭で関と同級の加藤敬が弁当を広げ自分たちの進路について語り合っていた。 「へえ。行男さんならどっちでも行けそうなわ。わしらの級長やし、勉学も運動にも明るいし。もし駄目やったとしたら、これか。 」 は指で金を表すサインをした。関はそれを見て小さく頷く。関の家は他に兄弟は居ないものの、何せ金がなかった。父の商売や母の行商では、旧制西条中学に通うまでが精一杯だった。 「ほやけん、それでいかんかったら金の要らん兵学校にする。お国のために身を尽くせるんやったら、これ以上ない幸せやけんの。 」 そう言って関は煮物を一口頬張った。 「関は流石じゃ。わしは、七高志望じゃ。医者になろ思とるんじゃ。 」 加藤が米を大きく頬彫りながら微笑む。その姿はさながら未来に希望を抱き青春を謳歌している青年である。 「敬さんは、医者にむいとると思う。わしがもし身体を悪くしたときは、しゃんしゃん治してまた直ぐお国のために尽くせるようにしてくれよ。 」 加藤はくしゃりと笑って、 「当り前じゃ。優秀なお前を前線から退かせることほど惜しいことはないわい。 」 「敬さんは、わしが一高へ行っても兵学校へ行っても、親友のままでおってくれよ。 」 関は加藤の眼をまっすぐ見て言葉を発した。 「絶交する理由もなかろ。ミユキさんのこともあるし。 」 ミユキとは、関の初恋の人で西条高等女学校へ通う二歳下の女学生のことである。色白で細面、スラリとした長身の少女で戦前~戦後に活躍した女優三浦光子の面影がある。加藤の妹がそのミユキと同級なのである。 「・・・。彼女との仲、妹さんに頼んどってくれよ。 」 「分かった、分かった。 」 関と加藤は肩を組み合い、年相応に笑いあった。
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