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それから、私はたびたびその喫茶店を訪れるようになった。
仕事帰りや、一人で寂しい週末なんかに。
マスターと私の仲は、急速に深まっていった。
男女の中になるのに、それほど時間はかからなかった。
「結婚、してくれないか?」
私が離婚して2年目に、プロポーズされた。
1度目の結婚で失敗している私は及び腰だったが、マスター…朗は積極的で、結局私が押し負けた。
式は、二人だけでハワイで執り行う事にした。
「朗さん。新居の頭金なんだけどね」
「ん?」
コーヒーカップを磨く朗に私は言った。
「朗さんからのお見舞金300万、使わない?」
朗は一瞬手を止めたが、すぐにクスクスと笑いだした。
「ほらな。お金は捨てるもんじゃない」
「うん。朗さんの言った通りだった」
あの日、私は捨てたものと捨てきれなかったものがある。
捨てきれなかったものが、新しい生活にリサイクルされるのも、悪くない。
私はコーヒーを飲みながら微笑んだ。
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