2回目 およぐ

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

2回目 およぐ

 あの真暗で広く波打った世界と良く似ていた。けれど、こっちのほうがよっぽど暖かった。後世、この時代は生命が生まれた時代として話題になるのだけれど、もちろんそんなことは知ったことではない。僕にとっての問題は、僕がまたお前と出会ってしまったということだ。もちろん、僕らにそんな意識はなかったのかもしれないけれど、僕らは結局ひとつまえ(、、、、、)とおんなじようによくわからない気持ちに唆されて長い時間を共有することになったのだ。僕とお前に繋ぐ手はなかったし、話す言葉もなかった。それでも、わかっていた。僕より幾分か体の大きいお前が、僕を守ろうとしていたことを。  だけど僕はお前が好きじゃなかった。だってお前はいつだって僕の先を行きたがった。ひとつまえ(、、、、、)と違ってそれなりに自由の利く体を得たからかもしれないけど、そんなの僕からしたら余計なお世話だ。僕だって泳げる。深い海の底を、さまざまな煌めきを孕んだ温水のすきまを、荒れ狂う波間を。お前だけが先に行くなんて、そんなのずるいじゃないか。あのうつくしくておそろしい透き通った世界を、お前に独り占めされていると憤慨していたのだ。  だから僕はお前を追い越してやった。だけど、僕がお前を追い越せたのは、その一回だけだった。たったの一回。僕は、僕やお前より何倍も大きななにか(、、、)にひとのみされてしまったのだ。僕をその咥内へと押し込む強い流れに負けて、僕はひゅうひゅうとそいつの体内に取り込まれてしまった。粘ついて、どろどろのそこは、ひどく醜くて、僕は自分がゆっくりと溶け出してゆくのをしずかに待った。  ほんとうに僕が全部なくなってしまうとき、僕の輪郭がうすぼやけたとき、僕はどうしてお前が僕の先を行きたがったかを理解して、やっぱり好きにはなれなかった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!