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「なにムキになってるの? ……人形相手に」
女が嘲笑しながら、言った。
「捨てなさいよ」
ベッドに腰掛ける人形を指差して、叫んだ。
「こんなモノと一緒にいたら、頭おかしくなっちゃうでしょ!」
……女の発言に。
全身の血が沸騰したかのように――憎しみが溢れ出した。
*****
――その後のことを、僕はよく覚えていない。
気づいたら、女が血を流して倒れていた。
彼女の裸の胸にも、女のものと思しき返り血が付いていた。
「ごめんな。汚しちゃって」
僕は彼女を担ぐと、路地裏のゴミ捨て場へと向かった。
冷たい雨が降っている。
「こんな別れ方はしたくなかったけど」
彼女のガラス玉の瞳に、血まみれの僕が映っている。
僕は彼女を凭せかけるように座らせると、
「さよなら……今まで、ありがとう」
小さく呟いて、その場を離れた。
雨はしばらく止みそうにない。
よかった。
彼女を汚したあの女の血も、この雨がすぐに洗い流してくれるだろう。
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