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「無様だな。」
サーベルタイガーに取り付いたヴァンガが、地べたに座る私を見下ろす。その眼にはあからさまな侮蔑の色があった。
「どうせ取り付くなら身体能力が高い方が良いに決まっている。人間なんて脆弱な器を選んだ結果がそれか。」
以前なら、こんな筋肉馬鹿の言葉など歯牙にもかけなかった。パワーと牙は脅威だが、ずんぐりした体格のサーベルタイガーの動きは遅い。万全の私であれば、首の頸動脈を掻き切れた。しかし、今の私にはヴァンガを無視するのが精いっぱいだった。
悔しさを押し殺して私は眠りについた。
夢の中の女が私を見ている。
今の私と違い、両腕はきちんとあるが、落ち着きなく動き続けているのが気に障る。
そして一番不快なのがオドオドした、いらつく目つきだ。
あの日以来、私は戦えなくなった。
両腕を失ったから、だけが理由ではない。今までの無理がたたって、この体のあちこちが悲鳴を上げていた。更には私の親代わりでもあったピスィカが地球人の手に落ち、あまつさえ、奴らとの共存を唱えた。そのため私も一族から内通者の疑いをかけられ、薄暗い洞窟の奥に軟禁されていた。
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