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第一章 不公平な現実
少し暗くなってきた夕方の五時過ぎ。降りしきる雨の中、僕赤志龍見は地面に倒されていた。殴られた頬を冷たい雨が叩く。
『手間を取らせるなよ』
男の声が裏路地の周囲に響いた。少し茶髪の少年が僕の顔に目掛けて足を振り下ろす。
僕の顔を踏みながら、そいつは僕のポケットから全財産が入った財布を盗んだ。耳につけられた十字架のピアスが鈍く光った。
『・・・頼むよ。取らないで』
僕は踏まれながら、精一杯の台詞を吐いた。
『うるせえよ。恨むなら、弱い自分を恨みな』
そう言い放つと、男は僕の腹を思い切り蹴りあげる。
『グァッ!』
その反動で、僕は口から昨日食べたものを吐く。
そして、男は僕の財布を取ると、満足そうに裏路地から出ていった。
『・・・』
世界はなんて不公平なのだろうか。濡れた地面を眺めながら、僕は思った。
「世界は不公平でなくてはならない。何故なら不公平でないと成長しないからだ」
どこかの偉い人が言った言葉だ。この言葉を思い出す度に、僕は腹のそこから怒りを感じる。そんなの、不幸になったことの無い金持ちの戯れ言だ。
生まれてから今日まで、ずっと不公平だと僕は感じてきた。きっとこれからもそれを感じて生きていくのだろう。
そんな事を考えながら、口の中の砂利を僕は吐き出した。その時、辺りにメロディーが流れた。夕方6時を知らせる為の聞いた事があるような童謡のメロディー。
僕は、ふらふらと立ち上がると前に向かって歩き出す。
歩きながら、帰ったら園長になんて言い訳をしようかと考えていた。きっと傷の事を聞いてくるだろう、財布はどうしたのとか聞いてくるかもしれない。色々と考えたが、面倒なのでいつもの対応でいこう。それが一番楽だ。
気づくと、いつの間にか「ひまわり」の玄関前に着いていた。
『・・・はぁ』
僕の口から思わずため息がこぼれ落ちる。
施設「ひまわり」これが僕の家だ。全体的に白っぽく、横に広がる平べったい、つまらない家だが、この施設に僕を含めて、二十人近くがこの場所に平等に生活している。
この施設には様々な事情で親に捨てられた子供達が数人の先生に囲まれて生活している。
ここに住んでいる子供達は、事情は様々だ。親が亡くなって行き場所を失くした者や、虐待を受けて逃げてきた者、両親に捨てられた者もいる。ここはそんな連中の集まり。僕もその一人だ。
先生の話によると、十年前の雨の夜、施設の前に捨てられている所を拾われたらしい。あまり興味はないが。
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