第二章 未確認

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周囲はよく見えないが、私には帰り道がはっきりと分かった。私がここから走れば、出口まで一分もかからないだろう。 私は匂いを頼りに、来た道を引き返した。霧で前を塞がれながらも、足元に注意を払いながら前に進む。担いだ人面犬が重いが、なんとか進んだ。 三十分程歩くと、見慣れた道に出られた。ふと、脇を見ると、黒スーツに黒いサングラスをかけた見慣れた顔が黒いワゴンの側にタバコを右手に持ちながら煙を吹かしていた。 『お疲れ様』 『お疲れ、林檎。今回の獲物よ』 私は人面犬を林檎に差し出した。かなりの重さのはずだが、高身長でガタイの良い林檎には軽々と持つことが出来た。 『確かに受け取った。これで依頼主も喜ぶよ』 『人面犬なんかどうするんだろうね?飼うのかな?』 『ああ。それ以外にも拷問して遊ぶんだとよ。金持ちのやることは理解に苦しむね』 林檎は車の後部座席を開けると、傷つけないようにと静かに置いた。ここまで確認して、ようやく仕事が終わったと言える。 『ありがとう、今回の報酬だ』 林檎は黒スーツのポケットから封筒を取り出す。それを受け取り中を見てみると、二十万位の大金が入っていた。これで、ようやく学費が払えそうだ。 『乗っていけよ、家の近くまで送るぞ?』 『そうね、そうさせてもらおうかな』 私は車の助手席に乗り込んだ。すぐ後ろの人面犬が気になったが、車はお構い無しにと発進した。 『なあ、もうお前とは何年の付き合いだったかな?』 林檎が突然、意味不明な事を語りだした。 『何、急に?多分、五年位だと思うけど』 『そうか、もうそんなになるのか。その頃に比べると成長したな。いくつになった?』 『十一歳よ。最初、貴方から話を聞いたときは胡散臭いと思った。未確認生物の捕獲の仕事をしろ、だもんね』 『ああ、最初のお前は全然引き受けなかったのにな。ガキのくせに、大人みたいに生意気な口を出してたものな』 林檎にそう言われ私は妙な懐かしさを感じ、思わず笑みがこぼれる。 『・・・あれから五年か』 「この世界には人々には知られていない未確認生物が存在する」親を亡くし、施設に入っていた私の所に林檎がやって来て、そう語ったのが五年前だ。 最初は聞く耳を持たなかった。何故ならあり得ないと思ったから。しかし、当時の林檎は私の意思とはお構い無しにベラベラと話していた。 しかも、冷静な口調で淡々と。 うちの社長の養子になって、未確認生物の捕獲の仕事に協力しろ。もし、協力してくれたら毎月の給料の他に願いを一つ叶えてやろうと言い出した。 私は信じてなかった。なので、無茶な願いを要求したら、叶うと言われた。叶えるから協力しろと言われ、半信半疑だったが私はそれに同意した。 最初は不安だった。素性もその時は知らなかったし、林檎の事も怖かった。何故、私に声をかけたのかも分からなかったが、住む家も提供するし、学校も用意すると言われた。行き場所を無くした私にとって心の何処かでチャンスだと思い林檎について行く決意をした。 何度も死にかけたが、それ以来ずっと林檎と私はコンビを組み、いくつもの未確認生物を捕まえては金持ちに売り払ってきた。自分の目的の為に。
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