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『ねぇ、何故私に声をかけたの?一緒に仕事をしようって』
私は何度もこの質問を林檎に投げ掛けていた。何年も。しかし、その度に会社の命令だったとしか言わない。
『何故かだって?何回、その質問をするんだ?その答えはお前が一番よく分かってるんじゃないのか?』
『違う。私が言いたいのは・・・』
『それよりも、明日から別の町の学校に転校してもらう』
『え・・・』
林檎の予想外の言葉に私は言葉を失った。
『転校って・・・、ずいぶん急な話なのね』
『ああ、社長の指示だ』
『一体、どういう事?いくらなんでも勝手すぎるわ』
急すぎる。私は思わず文句をこぼした。私には私の生活があるし、転校なんてしたくない。急にそんな事を言われても困る。
『・・・ドラゴンが現れた』
『なんですって?』
『今の場所から五十キロ離れた村に数日前、ドラゴンが現れたらしい。赤いドラゴンだ。』
『冗談でしょ?』
私はすかさず、そう言った。あまりにもあり得ない話だから。
『俺が、冗談が苦手なの知っているだろう?』
『林檎だって知ってるでしょう?ドラゴンはもういない。みんな滅びたんだから』
『ああ。でもそういう仕事が本当に来たんだ』
『・・・捕獲なの?』
『いや、今回は討伐だ。ドラゴンの心臓を欲しがっている客がいるらしい』
林檎が真剣なのはよく分かっている。しかし、どうしても私には信じられなかった。
ドラゴンは絶滅した。私は今の社長に拾われる前に本当の両親からそう聞かされていた。原因は大昔の人間が沢山のドラゴンを討伐していった為だとか。
『今回は大仕事だ。明日から町の中に侵入し、数日かけて溶け込み、情報収集。ドラゴンが現れたら討伐してもらう』
『・・・』
ドラゴンが生きてる。そう聞いたとき、私の心の中で複雑な感情が沸き上がってきた。モヤモヤさした、ドス黒い感情が。
『お前が何を考えているかは、大体分かる。仕事に私情を挟むな』
そう言われた瞬間、数年前の事を思いだし、そして消えていった。林檎の冷静な口調で諭すような話し方に少しイラッときたが、私は唇を噛みしめ怒りをグッと堪えた。
『・・・分かってるわ』
『それならいい。あと、町には香住と一緒に潜入してもらう』
『・・・はあ。またなのね』
私の口から思わずため息がこぼれた。話を聞いて、私のテンションは一気にゼロまで下がった。
『何だ?嫌なのか?』
『嫌じゃないけど・・・』
嫌じゃない。嫌じゃないが香住は言ってしまえば、私のお目付け役だ。付きまとわれるのかと思うと、これからの生活が嫌になりそうだ。
『そうか。では会社に寄った後、新居に案内する。いいな?』
林檎は冷静な口調で私を見つめた。その目からは逆らうなと言われた気がした。
『・・・了解』
どうせ、逆らっても良いことがない。とうとう諦めた私は、口からそう溢すのが精一杯だった。
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