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車の外の流れ行く景色を見ながら、私は数年前の事を思い出していた、両親の死に様を。そして、ある思想家の言葉を思い出していた。
「過去に囚われる囚人になるな。未来に生きる開拓者になれ」
父が口ぐせのように呟いていた言葉だ。しかし、今の私は過去に囚われる囚人となっているようだ。
『昔を思い出していたのか?』
ハンドルを握る林檎は遠慮するように言った。
『懐かしいわね。あれから五年か』
もう、五年。私にとって長いような短いような時間だ。
『ああ。お前の故郷をドラゴンが焼いてから五年経ってるんだな』
『・・・』
『・・・悪かったな。変な事を聞いて』
『いいの。気にしてないから。それに、いつまでも過去を嘆いていると、あの世で両親が悲しむから』
新しい土地に出向く不安もあるのだろう。少し感情的になっていた。出来るだけ涙を流さないようにと心を空っぽにしていたが、下を向くと涙が出そうになった。
私はいつもそうしてきた。胸を張って前を向かないと両親が悲しむと自分を言い聞かせながら周りには表情を悟られないようにと強がって生きてきた。
すると、私はいつの間にか泣けなくなっていた。まるで、心のない人形のように。
『強くなったな。出会った時よりも』
林檎は珍しく私に気を使っているようだった。サングラスで見えないが、優しい目を私に向けているのかもしれない。
『強くなったんじゃなく、強がっているだけかも。出会った時と少しも変わってない』
仕事の前の私は失敗したらどうしようといつも考えるし、新しい土地に行く時も心臓が潰れそうな位に常にドキドキしている。そう、強がっているだけだ。
『心配するな。うちの会社で働けば学校にも通えるし、何よりも願いを叶えられる。そうだろ?』
『・・・うん。私の願いは一族の復興』
『それでいいんだ。お前は周りの事は気にせずに自分の事だけを考えるんだ。いいな?』
『うん・・・』
『分かったら、もう少し寝ておけ。目的地へはまだ遠い』
私は安心したのだろうか、まるで何かに操られるように深い眠りについた。
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