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施設のすぐ裏には広大な森が広がっている。なんでも、大昔からあるらしく、その広さは東京ドームが一つ入る位の広さ。
この森には天狗が住んでいると噂され、入ると天狗にさらわれるとかいう子供騙しな話が伝えられている。
いつからか、恐れて誰も近寄らなくなり、近所の人から、この森は「不滅の森」と呼ばれるようになった。夜は勿論、昼間でも結構な暗さだ。
『・・・』
行方不明の人達がどうなっているのかは分からない。だけど、もし悪い事をしたりとか何かを隠すとしたらこの辺りでは「不滅の森」しか場所はない。ここが一番目立たない。
『龍見くん』
突然、後ろから聞き覚えのある声がした。僕は一瞬、身体が震えて思わず振り返った。
『やあ、龍見くん』
『・・・黄郷先生』
見覚えある姿に僕は思わずほっとした。一瞬、幽霊だと思ったから、幽霊じゃなくて良かったと心の隅で安堵する。
『ん?どうした?』
『いや、別に。それより、何ですか?』
『園長がついて行ってくれって。迷惑だったか?』
『ううん、全然』
黄郷先生には色々と助けてもらっている。学校のことや、施設でのこと。川に落ちそうになった所を助けてもらったこともあった。だから先生のことは嫌いjじゃない。
『学校まで歩きながら話そうか』
先生はいつも通りの表情の読めない笑顔でスタスタと歩きだす。
『昨日、傷だらけで帰ってきただろ?いじめか?』
『・・・別に』
『気持ちは分かるよ。そういう話はなかなか出来ないもんな。でも、先生もいじめられた事があるよ』
一方的に話す先生の言葉に僕は思わず心から驚いてしまった。
先生は、若く、見た目は清潔感溢れていて、その上身体もガッシリとした筋肉質だ。なんでも、何年か前までボクシングをしていたらしい。
女の人からもきっとモテモテに違いない先生の見た目からいじめられっ子だったなんて僕には想像がつかなかった。
『いじめられるのは辛いよな。でもな、先生はやり返そうとは思わなかったな』
『え?どうして?』
『やり返したら、いじめてきたそいつと同じになってしまう。先生はどうしてもそうはなりたくなかったんだ』
『・・・』
『いつの間にか、先生は身体を鍛えていたよ。そいつ等にいじめられても大丈夫なように。そしたら、いつの間にかいじめられなくなったな』
説得力のある言葉だと思った。きっと、先生の言ったことは本当だろう。でも、僕の中では・・・。
『・・・でも』
『分かってるよ。先生の言ってることが嘘かもしれないと思ってるんだろ?龍見くんを誤魔化すための嘘だと』
『・・・』
『信じなくてもいいんだよ、先生の事は信じなくてもいい。ただ、自分の事は信じてやれ。自分はいじめなんかに屈しないと信じてやれ。先生の言いたいことはそれだけだ』
『先生、僕は・・・』
『学校、着いたぞ』
先生に言われて、見上げると学校に着いていた。先生の言ったことは、正しいと思った。でも、自分のひねくれた性格が少し嫌に感じたのは確かだった。
『頑張れよ』
先生はそれだけ言うと、「ひまわり」に帰っていった。
自分を信じてやれ。黄郷先生の言葉が僕の心に突き刺さった。
もう少し心を開いても良いのかもしれない。そんな事を少し思いながら、教室に向かった。
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