第一章 不公平な現実

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放課後、僕はいつもの下校ルートとは違う道を歩いていた。 僕の前の道は、施設に帰るために墓場の側を通らなければならない道。なので、施設に住んでいる生徒たちは誰も通ろうとはしない。しかし、昨日の今日で同じルートを通る気にはならなかった。 ファンファンファンファン! 僕の横を数台のパトカーが凄いスピードで走っていった。恐らく、また何か事件があったのだろう。 今日、学校で全校集会が開かれた。内容は子供達がいなくなった事件の事だ。 校長先生の話では、とうとう休学を決行する手段に至った。 そして、学校で先生達が話しているのを聞いてしまったのだが、今朝園長が話していた行方不明事件の行方不明者、どうやらうちの学校の生徒らしい。恐らく、あのパトカーはうちの学校に行くんだろう。 ふと、前の方を見ると見慣れた人物が息を切らしながら走ってきた。睡蓮園長だ。 『龍見!今、帰ったの?』 園長は息をハアハアと息を切らしながらそう言った。 何があったんだろう。普段、周りに笑顔を振り撒きながら、どんなトラブルも冷静に解決してきた園長からは想像も出来ないような取り乱し方だ。 『そうですけど、どうしたんですか?』 『結城くん見なかった?今朝からさがしているんだけど』 結城というのはうちの年少組の一人だ。まだ小学校にも行けないので、「ひまわり」で面倒を見ている。 『今日は一度も見てないよ』 『そう・・・。お願い、一緒に探してくれない?』 園長は僕の目を真っ直ぐに見つめて言った。その目からは本気でお願いしてると感じた。 『・・・嫌だ。どうせ、その辺で遊んでるんでしょ?』 『もう五時よ?小さい子がこんな時間まで外にいるなんて、あなたは心配にならないの?同じ、施設の仲間でしょう?一緒に探して』 結城はまだ五歳だが、門限の五時を破った事は一度もない。そんな子が帰ってこないなんて普通じゃないのは分かってる。しかし、どうしても協力する気にはならなかった。園長、嫌いだし。 『何が仲間だよ、馬鹿馬鹿しい』 『そういう態度だと、あなたは一生一人で生きていく事になるのよ?態度を改めないとこの先・・・』 そう言われた瞬間、僕の中の小さな何かが切れた。 『うるさいな!何が態度だよ!母親でもないくせに!』 そう言った瞬間、僕は自分の言っている事は悪い事だと分かっていた。しかし、自分でも分からない。自分の口が止まらなかった。 『僕には関係ない!どこにでも探しに行けよ、帰ってくるな!』 その時、園長は怒りよりも悲しそうな目でこちらを見つめていた。多分、一生忘れられないだろう。 『もういいわ』 園長は確かな口調で、今まで見たことない悲しそうな目で僕を見つめて言った。気のせいかもしれないが、目には涙も浮かべていたような気がした。 『あなたが、周りをどれだけ嫌おうと、人間はいつまでも一人で生きていく事は出来ないわ。これだけは忘れないで』 『・・・』 園長は僕にそう伝えると、そのまま何処かへ消えてしまった。 それを見ながら僕は、プライドと後悔が合わさったような不思議な感情に包まれたまま、いつまでも何もない空間を眺めていた。
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